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基本情報技術者過去問題 平成28年秋期 午後問7
⇄問題文と設問を画面2分割で開く⇱問題PDF問7 経営戦略・企業と法務
業務提携と出資の検討に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。
消費財メーカーのB社は,同業のT社との物流業務での提携を考えており,そのためにT社への出資を検討している。B社では,T社への出資額を算定するための準備として,T社の財務状況を調査して,企業価値を算出することになった。表1~3は,B社が入手したT社の2016年度の損益計算書,貸借対照表及びキャッシュフロー(以下,CFという)計算書の予測である。
消費財メーカーのB社は,同業のT社との物流業務での提携を考えており,そのためにT社への出資を検討している。B社では,T社への出資額を算定するための準備として,T社の財務状況を調査して,企業価値を算出することになった。表1~3は,B社が入手したT社の2016年度の損益計算書,貸借対照表及びキャッシュフロー(以下,CFという)計算書の予測である。
設問1
表1~3に関する次の記述中の に入れる適切な答えを,解答群の中から選べ。
B社では,出資する相手企業が次の条件(以下,出資条件という)のうち二つ以上を満たすことを,出資の検討を進めるための要件としている。
また,B社は,T社の営業活動によるCFが正で,投資活動によるCFと財務活動によるCFが負であることから,T社はbを進めている企業と考えた。
B社では,物流業務での提携に加えて,T社の情報システムの一部を廃止してB社の情報システムを利用することを検討している。それによってT社のシステム運用保守費を削減し,T社の販売費及び一般管理費(以下,販管費という)を圧縮できると想定しており,T社の売上高や総資産が変わらなければc上げられると考えている。
B社では,出資する相手企業が次の条件(以下,出資条件という)のうち二つ以上を満たすことを,出資の検討を進めるための要件としている。
- 売上高営業利益率が5%以上である。
- 総資産経常利益率が5%以上である。
- 営業活動によるCFと投資活動によるCFの和(以下,FCFという)が負でない。
また,B社は,T社の営業活動によるCFが正で,投資活動によるCFと財務活動によるCFが負であることから,T社はbを進めている企業と考えた。
B社では,物流業務での提携に加えて,T社の情報システムの一部を廃止してB社の情報システムを利用することを検討している。それによってT社のシステム運用保守費を削減し,T社の販売費及び一般管理費(以下,販管費という)を圧縮できると想定しており,T社の売上高や総資産が変わらなければc上げられると考えている。
a に関する解答群
- (1)と(2)の二つだけ
- (1)と(3)の二つだけ
- (2)と(3)の二つだけ
- (1)~(3)の全て
b に関する解答群
- 本業で得た利益に加えて,銀行からの借入れを増やして投資
- 本業で得た利益に加えて,手持ちの資産を現金化して債務返済や株主還元
- 本業で得た利益を投資に回すとともに,債務返済や株主還元
c に関する解答群
- FCFだけは
- 売上高営業利益率と総資産経常利益率だけは
- 売上高営業利益率,総資産経常利益率及びFCFの全てを
解答選択欄
- a:
- b:
- c:
解答
- a=エ
- b=ウ
- c=ウ
解説
〔aについて〕
3つの条件について検証します。
∴a=エ:(1)~(3)の全て
〔bについて〕
投資活動によるCFおよび財務活動によるCF欄には、以下の活動による現金の流出額が記載されます。
〔cについて〕
営業利益と経常利益はそれぞれ次の式で求めます。
営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費
経常利益=営業利益+営業外収益-営業外費用
この式で表されるように販売費及び一般管理費が減少すると営業利益が増加し、経常利益も営業利益が増えた分だけ増加します。さらに営業利益が増加すると営業活動によるCFが増えます。売上高や総資産は変わらないため3つの指標全てが増加します。
∴c=ウ:売上高営業利益率,総資産経常利益率及びFCFの全てを
3つの条件について検証します。
- [売上高営業利益率が5%以上]
売上高営業利益率は、売上高に対する営業利益の割合なので「営業利益÷売上高」の式に損益計算書の値を代入して算出します。
7÷120=0.05833…≒5.8(%)
したがってT社は条件1を満たしています。 - [総資産経常利益率が5%以上]
総資産経常利益率は、総資産に対する経常利益の割合です。総資産とは負債分も含めた企業の資産で「純資産」と「負債」の合計のことです。負債は流動負債と固定負債の合計なので、T社の総資産は以下の額になります。
40+30+80=150(億円)
経常利益は、9億円なので「経常利益÷総資産」の式に値を代入して総資産経常利益率を算出します。
9÷150=0.06=6(%)
したがってT社は条件2を満たしています。 - [FCFが負ではない]
CF計算書から営業活動によるCF=15、投資活動によるCF=-5と分かるので、
15+(-5)=10(億円)
したがってT社は条件3を満たしています。
∴a=エ:(1)~(3)の全て
〔bについて〕
投資活動によるCFおよび財務活動によるCF欄には、以下の活動による現金の流出額が記載されます。
- 投資活動によるCF
- 固定資産の売買、新事業への投資、株式や債券の売買など
- 財務活動によるCF
- 自社株式の発行・取得、配当金の支払い、借入金の増減、社債の発行・償還など
- 投資に現金を使うと投資活動によるCFは減少します。この点はT社のCF計算書と合致しています。しかし借入金の増加はCFの増加要因なので、借入金が以前より増えると財務活動によるCFは正になるはずです。T社の財務活動によるCFは負になっているため誤りです。
- 債務返済や株主還元を行うと企業内の現金が減るため財務活動によるCFは減少します。この点はT社のCF計算書と合致しています。しかし手持ちの資産の現金化はCFの増加要因なので、資産の売却により現金が増えると投資活動によるCFは正になるはずです。T社の投資活動によるCFは負になっているため誤りです。
- 正しい。現金で投資を行うと投資活動によるCFが減少し、債務返済や株主還元を行うと財務活動によるCFが減少します。T社のCF計算書は両CFとも負になっているため適切な解釈です。
〔cについて〕
営業利益と経常利益はそれぞれ次の式で求めます。
営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費
経常利益=営業利益+営業外収益-営業外費用
この式で表されるように販売費及び一般管理費が減少すると営業利益が増加し、経常利益も営業利益が増えた分だけ増加します。さらに営業利益が増加すると営業活動によるCFが増えます。売上高や総資産は変わらないため3つの指標全てが増加します。
∴c=ウ:売上高営業利益率,総資産経常利益率及びFCFの全てを
設問2
T社の企業価値の算出に関する次の記述中の に入れる適切な答えを,解答群の中から選べ。
B社では,各年度のFCFの現在価値を合計することで企業価値を算出している。そこで,B社は,T社の企業価値を算出する準備として,T社の今後のFCFを次のように予測した。ここで,T社との業務提携と出資は2017年度の初日に行われるものとする。
T社の企業価値は,B社と業務提携することによって大きくなると予想される。
誤って,割引率を考慮せずに各年度のFCFをそのまま合計して,B社で定義している企業価値よりもf計算してしまわないように,B社では定期的に担当者教育をしている。
B社では,各年度のFCFの現在価値を合計することで企業価値を算出している。そこで,B社は,T社の企業価値を算出する準備として,T社の今後のFCFを次のように予測した。ここで,T社との業務提携と出資は2017年度の初日に行われるものとする。
- B社との業務提携によって,初年度(2017年度)に10%増加する。
- 2018年度から2020年度まで年率5%で増加する。
- 2021年度から2023年度まで年率3%で増加する。
- 2024年度からは一定である。
T社の企業価値は,B社と業務提携することによって大きくなると予想される。
誤って,割引率を考慮せずに各年度のFCFをそのまま合計して,B社で定義している企業価値よりもf計算してしまわないように,B社では定期的に担当者教育をしている。
d,e に関する解答群
- 9.09
- 9.84
- 10.00
- 10.03
- 10.50
- 10.82
- 11.00
- 11.03
- 11.55
- 12.10
f に関する解答群
- 大きく
- 小さく
解答選択欄
- d:
- e:
- f:
解答
- d=ケ
- e=ウ
- f=ア
解説
〔dについて〕
FCFは営業活動によるCFと投資活動によるCFの和なので、T社の2016年のFCFは次の額になります。
15+(-5)+10(億円)
FCFは年を追うごとに増加していきます。本文中に2017年は10%増加、2018年度から2020年度は5%増加とあるため、2018年度のFCFは、基準となる2016年のFCF(10億円)に各年の増加率を乗じて計算します。
10×1.1×1.05=11.55(億円)
∴d=ケ:11.55
〔eについて〕
2017年のFCFは2016年のFCFの1.1倍なのでC=11です。また2017年は2016年の1年後なのでn=1、割引率は年率と同じになるのでr=0.1です。現在価値を求める式にそれぞれの値を代入して答えを導きます。
11÷(1+0.1)1=11÷1.1=10(億円)
∴e=ウ:10
〔fについて〕
現在価値は、将来の価値を現在の価値に計算し直すことで正確に比較しようとする考え方です。
eで計算した2017年度を例に用いると、単純に年率を乗じた場合のFCFは11、現在価値の考え方を使用した場合は10と算出されます。このように現在価値は将来価値より常に小さくなります。B社では企業価値の算出に現金価値の考え方を用いているため、割引率を考慮せずに計算すると企業価値が本来より大きく算出されてしまいます。
∴f=ア:大きく
FCFは営業活動によるCFと投資活動によるCFの和なので、T社の2016年のFCFは次の額になります。
15+(-5)+10(億円)
FCFは年を追うごとに増加していきます。本文中に2017年は10%増加、2018年度から2020年度は5%増加とあるため、2018年度のFCFは、基準となる2016年のFCF(10億円)に各年の増加率を乗じて計算します。
10×1.1×1.05=11.55(億円)
∴d=ケ:11.55
〔eについて〕
2017年のFCFは2016年のFCFの1.1倍なのでC=11です。また2017年は2016年の1年後なのでn=1、割引率は年率と同じになるのでr=0.1です。現在価値を求める式にそれぞれの値を代入して答えを導きます。
11÷(1+0.1)1=11÷1.1=10(億円)
∴e=ウ:10
〔fについて〕
現在価値は、将来の価値を現在の価値に計算し直すことで正確に比較しようとする考え方です。
eで計算した2017年度を例に用いると、単純に年率を乗じた場合のFCFは11、現在価値の考え方を使用した場合は10と算出されます。このように現在価値は将来価値より常に小さくなります。B社では企業価値の算出に現金価値の考え方を用いているため、割引率を考慮せずに計算すると企業価値が本来より大きく算出されてしまいます。
∴f=ア:大きく
設問3
B社では,様々な条件を変更してT社の企業価値(各年度のFCFの現在価値の合計)がどのように変化するかを検証した。条件を変更する前に比べてT社の企業価値が大きくなるものを,解答群の中から選べ。
解答群
- B社がT社の企業価値を算出するときに使っている割引率を0.12に上げる。
- T社の2016年度の銀行からの借入れの予測額を減らす。
- T社の2016年度の設備投資の予測額を増やす。
- T社の2016年度の販管費の予測額を減らす。
解答選択欄
解答
- エ
解説
- 割引率を上げると現在価値が小さくなるので、企業価値の合計は以前より下がります。
- 銀行からの借入れを増やすと財務活動によるCFが増加します。しかし、FCFは営業活動および投資活動によるCFの和なので、FCFは変化しません。
- 設備投資を増やすと投資活動によるCFが減少します。FCFは営業活動および投資活動によるCFの和なので、FCFは以前より減少します。
- 正しい。販管費を減らすと営業利益が増加し、営業活動によるCFもいっしょに増加します。FCFは営業活動および投資活動によるCFの和なので、FCFは以前より増加します。